| 「不幸な幼少期・不幸な環境」というのは、弁護士が使う格好の口実だと言えるかもしれない。
文豪エドガー・アラン・ポオは幼くして孤児になり、大学在学中に賭博で巨額の借金をつくり大学を中退、軍のウェストポイントの士官学校も素行が悪かったため放校処分になった。その後、結婚間もない若妻が死亡している。
ロックフェラーの父親は万能薬と称し石油を積めた瓶を売り、カナダで偽名を使って重婚していた。カーネギー、ロナルド・レーガンの父親も客観的に見てかなりの問題のある人物だった。両親に何らかの問題があることと、子供の非行とは因果関係がはっきりしない。
また、家庭環境も同じだ。リンカーンやイエス・キリストが極貧家庭に生まれたのは有名であり、ベンジャミン・フランクリンも正式な教育は2年しか受けられない程貧乏だった。松下幸之助は小学校を4年で中退している。
ただ、愛情の片鱗すらない虐待が激しい場合、そこから猟奇的な人間が生まれてくる可能性は高いかもしれない。"Boston
Strangler"として有名な
デサルボは、アルコール中毒の父親によって奴隷として売り飛ばされている。
ルーカスの場合は、母親がまだ幼いルーカスを膝に載せてバーで飲んでいるとウェイトレスが「子供が欲しいからうらやましい」というとビール一杯で売り飛ばされた。
虐待は裁判での絶好の口実とも言えるが、大抵の猟奇殺人犯は自らの幼少期を、果てしない性的虐待、折檻の続いた日々として描く。
だが虐待を受けても圧倒的多数の人間は猟奇殺人犯にはならない。虐待を受ける子供は全米で毎年200万人(ジョエル・ノリス シリアルキラーp263)だが、この200万人の子供の方がそうでない子供より犯罪率が高いという科学的な根拠は存在しない。
第三世界の子供はアメリカ人よりも圧倒的に劣悪な環境で育つにも関わらず、人口5%のアメリカは猟奇殺人の75%を生み出している。世界一犯罪発生率が低い国の一つである日本では、つい最近まで子供を教育するときに殴るのは当たり前だとされてきた。
重要な点は両親や教師が愛情を伴わない暴力を振るう場合だろう。幼少期に保護者や社会との信頼関係を築くことに失敗すると、以後の人生において人間を信じることの基盤が失われる。
現実の人間との信頼や愛に基づく関係は、健全に生きて行くには不可欠だが、暴力や虐待によって人を信頼出来なくなり、現実の人間に幻滅して空想の世界に生きるようにしてしまうのは、かなり危険だ。ルーカスは母親から虐待を受けた上に、非常に内気で義眼(兄が喧嘩してナイフでくり抜いた)を入れていたため、学校でいじめられていた。
信頼・尊厳・愛といった肯定的な特質を育む代わりに、空想や幻想で頭を一杯にしていると外界との相互作用が失われる
(Robert
Ressler, Ann Burgess and John Douglas in Sexual Homicide)
親はどうあるべきだろうか。過干渉か全く愛情を示さない、または性的にだらしがないか、セックスを重罪とするような極端な親が批判されることが多い。
私のような人間にはもちろん責任がある、
ダーマーの母親Joyce
Flintは過干渉であったことを認めてこういっている。母親の責任はかなり重大かもしれない。ルーカスの場合、連続殺人の最初の犠牲者は母親だった。ケンパーは最後に母親を殺している。
猟奇殺人犯は、母親との関係が通常はあり得ない、もしくは非常に不自然な形を取ることがほとんどだ
(Steven
Egger The Killers
Among Us)
異常なまでに干渉する母親は成熟しない人間を作るかもしれない。
ゲインの母親は宗教的信条から、女を罪の塊で病の元凶だと教えた。彼は後に女性の頭蓋骨をコップや便器として使用、それは自らを清める儀式だった。
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| ゲインが使用していた頭蓋骨 |
Joseph
Kallingerは敬虔なカトリック信者の里親に6歳で引き取られた。母親は躾として手を火であぶり、泣くと顔面を殴った。彼は人間を苦しめることに限りない快感を感じるように育ち、自分自身がサディスティックな親になった。13歳の息子に生命保険をかけ、必死に哀願する息子をじわじわと楽しむかのように溺死させた。
ケンパーは母親の首を切り落とし声帯を切り取ってゴミ箱に捨てた後、首のない死体と性交、さらに暖炉の上に首を置いてダーツの的にした。ケンパーの母親は、典型的な暴君型でちょっとしたことですぐに怒鳴り散らしケンパーを地下室に閉じこめた。幼少期にケンパーは“処刑ゲーム”と称して人形の首を落として遊んでいた。
逆にセックス中毒の母親の場合を見てみよう。Bobby
Jo Longは母親にそっくりの娼婦型の女性を大量に葬った。本人の証言によれば、彼の母親は彼が寝ている同じ部屋に何人も男を呼び込んで性交した。また彼は13歳になるまで母親と同じベッドで寝ていた。
マンソンの母親Kathy
Maddoxは娼婦で、出生証明書に"No
Name Maddox"(名無しのマドックス)と記入した。育児はせず親戚に預けっぱなしで、有名な噂では居酒屋に売り飛ばしたとされている。彼は叔母に預けられるがその夫はマンソンを“腰抜けホモ”と呼び、何かあれば女装で学校に行かせた。
ルーカスの母親は暴力的でアルコール中毒、麻薬の売人だった。原因は不明だが彼は7歳まで女装で育てられた。教師が長い髪を切るように言ったため勝手に髪を切ると、無表情のまま後頭部を頭蓋骨を骨折するまで木棒で殴りつけた。また性交を見るように強要されていた。1951年にルーカスは大量殺人の最初の犠牲者として母親を殺している。
ただし、虐待は、PTSD・鬱病・境界精神分裂病と同様、訴訟が発達したアメリカで刑事罰を軽くするための口実とされているのも事実で、犯罪との因果関係をどの程度認めるのかはまだ頃からも議論と研究が必要だろう。
映画「8mm」の中で"マシーン"という殺人犯が、その母親が教会に行っている間に、主人公の探偵(ニコラス・ケイジ)と墓場で格闘するシーンがある。そこでマシーンはこう言う。
虐待なんかなかった。おれは好きなことをしているだけだ。生まれつきこうなんだよ
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暴力的な躾を好む父親を猟奇殺人犯の家系から拾い出すのは容易だ(その反対も容易)。ゲーシーの父親は、彼を"腰抜けホモ"と呼び、怒鳴り散らした。また、暴力的かつアルコール中毒で妻に激しい暴行を加えた。またゲーシーの前で罰としてかわいがっていた犬を銃で殺した。
デサルボの父親は、自宅に娼婦を連れ込んで妻と喧嘩になると、殴ったうえにまだ幼いAlbertが見ている前で指を一本ずつ楽しむかのように折っていった。
ボストンを恐怖で凍り付かせた、デサルボは父親についてこう述べている。
“オヤジは配管工だった。俺の背中じゅうをパイプで殴ったよ。よける間もなかったね”
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Albert
DeSalvo |
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